銀行から融資を受けた後に求められる決算書について。
次のようなことを思ったことはないでしょうか?



結論的には、銀行から融資を受けていて、決算書などを求められたら、提出しなければなりません。義務です。
契約内容を確認していただくと、その旨の特約条項が必ずあるはずです。
また、この特約条項を確認すると、どこまで?や必要最低限という選択肢もありません。
今回は、銀行へ決算書を提出することや、その決算書からなにを読み取っているのかをまとめていきます。
目次
銀行への決算書の提出について
たとえば、日本政策金融公庫では、特約条項第10条に、報告および届出という条項があります。
そこには、「借主の財産、経営、業況その他について公庫から請求があったときは、直ちに報告し、また調査に必要な便益を提供します。」と記載されています。
調査に必要な便益とは、申告書や決算書類、各種帳簿と記載内容の説明など、信用調査に必要な一切の便益をいいます。
このように、融資を受ける際の契約に、こちらが求めたら決算書を見せてね、また、わからないことは説明してねと、ちゃんと書かれているんですね。
どこまで、必要最低限でOK?という選択肢はない
これも残念ながら、調査に必要な便益のなかに、決算書だけではなく、各種帳簿書類なども含まれているので、銀行が求めるものすべてと理解しておいてください。
しかし、銀行も契約書に書かれているといって、普段から何もかも提出してくれと言ってくるわけではありません。
ここまで細かく定めるのは、おそらく、不測の事態に備えてのこと。
通常は、申告の事実を確認できる書類と、決算書、勘定科目内訳書、国税の主要な申告書数枚程度でしょう。
銀行の決算書の読み取り方
これまで、銀行からの決算書提出の求めには、借主は応じなければいけないということは確認できました。
では、なぜ銀行は決算書や試算表の提出を求めるのか。
状況により異なりますが、概ねこのような確認を行うです。
銀行が決算書を求める理由
この会社は本当に返せる商売をしているか
ちゃんと約束どおり設備取得はされているか
経営改善計画書どおりの利益計上と、資金繰りは改善されているか
追加融資の提案はできないか
毎月、遅れず返済されていても、お金に色はついていないので、そのお金が本業で儲けた利益なのか、他所から借りてきたお金なのかわかりませんよね?
ですので、銀行は利益がちゃんとでているのを確認したいんです。
また、融資をした資金が別のことに使われていないかの確認もしたりします。
ただし、こちらから提出した決算書や試算表の数字を「そうなんですか。わかりました。」と、額面通りに受け取ってもらえません。
これは、融資を受けるときにも同じことがいえるので、覚えておいてください。
銀行では、科目ごとに適正(あるべき)数値に修正して「実態決算書」を作成します。
修正の対象となる科目や方法は、銀行によってバラつきがあります。
メガバンクはとても厳しく、信用金庫などは比較的中小企業の意向に沿った修正をしてくれます。
厳しい修正とは、資産と考えていたものが資産価値ゼロとなる場合もあるので、経営者が債務超過会社ではないと認識していても、銀行からは債務超過会社と判定を受けることもあります。
では、修正を受けやすい科目について一つずつ確認していきたいと思います。
売掛金、貸付金に回収不能分は含まれていないか
通常、これらの金銭債権は短期的に回収できるものが多いため、回収が滞っているもの、貸倒れの可能性が高いものについては、債権(資産)とは判断しません。
このあたりは決算書の貸借対照表だけでは判断できません。
そこで銀行が求めるのが、貸借対照表の勘定科目内訳書です。
これを数年見比べると、動いていない金銭債権や回収不能分がなんとなく見えてきます。
こういった金銭債権があれば、銀行は資産から除外します。
棚卸資産に不良在庫などないか
経営者の心理として、融資アクションを起こす直近の決算書は、見栄えをよくする傾向があります。
たとえば、在庫を増やして無理やり利益をだしている可能性がありますので、過去の決算書や粗利、月々の仕入などから適正額となっているか確認します。
少しぐらいの在庫のごまかしはわからなくても、利益率、原価率に変化が起きるようなごまかしは、「なんかおかしいな」と疑念を持たれます。
在庫が増えたことについて、正当な理由があれば、きちんと説明できますが、ウソの場合、すぐに理由を説明できません。
あいまいな回答をしてしまうと、銀行員は「なるほど、わかりました。」と回答するでしょうが、その真意は、「なるほど、やっぱり粉飾ですね。わかりました。」となるでしょう。
このように、棚卸資産に関することで、つぎの融資の機会を知らず知らずのうちに失っていることって結構あるんです。
役員報酬は適正か、役員に対する仮払金や貸付金はないか
自分の役員報酬を少なくすると経費が減少するので、利益がでますよね。
融資を受けたいときに役員報酬を下げて、融資実行後に元に戻すということ。
しかし、銀行はその報酬で本当に生活できるの?という視点で修正をおこないます。
家族構成により増減する可能性もありますが、「生活する上で最低でも月額30万円の報酬は必要ではないか?」という視点で修正することが多いようです。
詳しくは以前のブログでも同じような内容が出てきているので、気になる方はこちらをご覧ください。
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減価償却資産に償却不足はないか
これも棚卸資産と同じように、決算書にお化粧がされていないかの確認です。
つまり、法人では任意計上が認められている減価償却費を少なくすれば利益をだせますので、銀行はその事実が確認できれば、固定資産の価値を通常どおり償却した資産価値まで減額する修正を行います。
たとえば、決算書の固定資産の帳簿価額が100万円となっていても、償却不足が90万円ある場合、それが意味するのは、これまで利益をだすために90万円の経費計上をしてこなかったということ。
銀行は、固定資産について償却不足が確認できれば、それを差し引いた後の、本当の帳簿価額を資産として考えます。
この場合、決算書の帳簿価額は100万円ではなく、10万円と判断されます。
役員借入金は資本とみなしてくれる
唯一、会社にとってはプラスに働く修正といえるでしょう。
これも以前のブログに記載していますが、中小企業の多くは、株主=経営者ですので、経営者からの借入金は「ある時払いの催促なし」と考え、資本金と同様の扱いをしてくれます。
この場合、負債として計上されている役員借入金は負債ではなく、資本とみなしてくれるので、債務超過状態を免れる可能性があります。
まとめ
銀行からの決算書の求めには断ることができないということと、決算書を求める理由とその読み取り方をまとめてみました。
要するに、「利益はでているかな?」「貸したお金が約束どおり使ってもらえてるかな?」「返せない状態になっていないよな…」などの確認をしたいんですね。
銀行からの決算書の提出が義務であれば、発想を変えて、こちらから積極的に決算書の提出と説明をして、銀行と良い関係を築くための手段に利用してみてはいかがでしょうか。
その方が、つぎの融資につながる可能性もひろがるのではないでしょうか。
銀行によっては決算書の修正科目と、その適正数値の考え方が異なることについて、一般的にメガバンクは厳しい修正を行うといわれています。
中小企業が、メガバンクからプロパー融資を受けることが難しいといわれる理由です。
その意味で、融資戦略として銀行の選定も重要といえるでしょう。
今回の記事が、銀行とのお付き合いの参考になれば幸いです。