借入をする際、銀行に決算書を提出することがありますが、どこを見ているのか気になりますよね?
経営者の方と決算の打合せをしている時によく聞く言葉です。
経営者の方は黒字になっていれば良い決算書、銀行さんに胸をはって提出できる決算書と考える方がほとんどです。
間違いではありませんが、もちろんそこだけで判断はしていません。
では、銀行は一体どこを見ているのか。
銀行が融資の相談を受けた際、決算書から貸せるかどうかの簡易診断を行います。
簡易診断とは、返済能力があるのかどうかの確認。
決算書から読み取れる返済能力のポイントとしては、3つあります。
3つの返済能力ポイント
-
簡易キャッシュフロー
-
実態債務超過(資産より負債が多い状態)の有無
-
債務償還年数
この3つのポイントを理解するだけで、借りやすい決算書のイメージができ、関与している税理士へ具体的なリクエストができます。
逆に3つのポイントが理解できていないと、税理士が好きに作った決算書が出来上がってしまいます。
資金調達に精通している税理士さんであれば、すべてお任せでOKでしょう。
しかし、税理士は税金の専門家であって、財務や銀行対応については専門外。
素人の方が多いのが実情です。
どうせ決算をするなら、銀行に受けの良い、借りやすい決算書を作成してみてはいかがでしょうか。
銀行が確認する決算書の3つのポイント
ポイントはたったの3つだけ。
【ポイント①】簡易キャッシュフロー
税引き後利益+減価償却費=簡易キャッシュフロー
これは決算書上、理論的にどれだけのお金が返済に回せるのかをチェックするものです。
税引き後利益は税金を支払った後の利益です。
そこに減価償却費を足し戻します。
理由は、お金の支出を伴わない経費だからです。
もちろん減価償却費以外に、お金の支出を伴わないものがあれば同じように足し戻します。
他に影響を与える項目としては、役員報酬です。
たとえば「これで生活できるのかな?」ぐらい少ないと、家族構成、お住まい、社長への仮払金や貸付金、借入金の有無をチェックし、妥当な役員報酬額を税引き後利益に反映させます。
簡易キャッシュフローがマイナスの場合、「返済できるお金はない」という意味ですので、簡易キャッシュフローは重要であるといえます。
続いて、簡易キャッシュフローに影響を与える項目をさらっと確認したいと思います。
売上と利益
簡易キャッシュフロー算定は、税金を払った後の利益がベースになります。
ですが、けっして利益がすべてではありません。
税引き後利益とは損益計算書では一番下の項目。
税引き後利益が計算されるまでには色々な項目があります。
たとえば、会社がどれだけの売上を獲得したのか、そしてその売上を獲得するための原価を差し引いた後の売上総利益、会社が本業でどれだけの利益をあげたのかという営業利益、会社が経常的にどれだけの利益をあげたのかという経常利益という項目があります。
銀行は、この利益計算のプロセスを無視するわけではありません。
営業利益、経常利益が赤字となっていて、固定資産を売却したり、債務の免除を受けたことで突発的に発生した利益の影響で、たまたま税引き後利益が黒字となった場合、当然に評価は弱まります。
突発的なことは毎期起こるとは考えられないので、こういった会社は「本業で稼げていない=返済能力に不安がある」と判断されることになります。
減価償却費
法人であれば、減価償却費を調整することで利益をだせます。
ですが、これをすると法人税の申告書に償却不足額○○円という記録が残ってしまいます。
あたりまえですが銀行は、ここもチェックします。
要するに、ちゃんと利益が計算されているのかを確認するということですね。
また、償却不足額があると、会社には費用化待ちの資産として貸借対照表に残っています。
これは、銀行からすると資産ではありません。
くわしくはポイント②の実態債務超過(資産より負債が多い状態)でふれますが、会社は資産と思っているが、銀行は思っていない。
ということは、銀行目線では会社の資産が目減りするということ。
会社は債務超過と思っていなかったが、銀行からすると債務超過である。
こんな認識のちがいが生まれてしまいます。
役員への報酬はいくらなのか、役員への仮払金や貸付金はないか
減価償却費と同じように、役員報酬も下げれば利益をだせますよね。
経営者であれば、自身の報酬は自分で決めます。
なので銀行は、ここもチェックするんですね。
問題なのは、役員報酬が高額か低額かよりも、生活に問題ないだけの適正額が計上されているのかどうか。
たとえば、利益をだすために役員報酬を10万円にしたとしましょう。
すると、銀行とのあいだで、こんな会話が繰り広げられます。
両親と暮らしているのでなんとか生活できますよ。
では、前期は無かったのに、今期は社長あての仮払金が200万円あるようです。この内容を教えていただけますか?
このような場合、役員報酬は生活ができる適正額に戻されることになります。
銀行目線では200万円が役員報酬とみなされますので、その分だけ利益は目減りすることになります。
【ポイント②】実態債務超過(資産より負債が多い状態)の有無
純資産+役員借入金-回収不能債権-不良在庫-償却不足額
この計算式は、実態の自己資本額(会社の資産)がいくらなのかをチェックできます。
純資産とは、会社のすべての資産から負債を引いて計算され、貸借対照表上の資本の部に記載されています。
役員借入金は社長が会社に貸し付けているものですので、ある時払いの催促なしという性質上、銀行からすれば資本金と同様の扱いをしてくれます。
また、貸借対照表上、資産とされているものでも換金価値のないものは除かれます。
先ほどの減価償却不足額なんかが影響します。
毎年の減価償却費を1,000円計上できるところ、利益をだすために500円にしていた場合、経費待ちの帳簿価額が500円残ることになります。
しかし固定資産は耐用年数しか価値がないと考えられるので、減価償却が足りない場合は、通常の減価償却をしていたものとして計算します。
純資産と役員借入金
純資産とは、ざっくりいうと株主からのお金と会社が稼ぎ出した利益の蓄積の合計です。
株主からのお金というのは、資本金ですね。
資本金は増資や減資などをしない限り、毎期ころころ変わることはありません。
ころころ変わるのは、会社が稼ぎ出した利益の蓄積である利益剰余金と呼ばれるものです。
ですので、赤字続きの会社は利益剰余金がマイナスになっていて、形としては資本金を食いつぶしているということになります。
そうなると、実態債務超過の計算上、マイナススタートとなります。
一方、役員借入金は、経営者が会社にお金をいれたもの。
資本金とすれば、手続きが大変で納税リスクも生じますが役員借入金であれば簡単にお金のやり取りができます。
そして、経営者であれば無理に会社からお金を引き上げたりしないと考えられるので、実質的には資本金と同様の扱いをしてくれます。
負債と考えていたものが資本とみなしてくれるので、見た目は債務超過でも、ちがった読み取り方をしてくれるということです。
回収不能債権と不良在庫は資産ではない
実態債務超過がいくらなのかということなので、回収できないような債権や、売れない在庫は資産とは考えません。
このへんは嘘をついてもわからないのでは?と考える方もいらっしゃいますが、簡単にバレます。
例えば回収不能債権は、数年間の勘定科目内訳書を追いかければ確認できます。
また、売れない在庫も勘定科目内訳書や棚卸表を追いかければ確認できます。
かりに、細目が記載されていなかったとしても、数年間の原価率などから在庫の適正額がわかります。
【ポイント③】債務償還年数
長期借入金(有利子負債)-現預金-正常運転資金÷簡易キャッシュフロー
手持ちの現預金などを相殺した後の実質的な借入金を何年で返済できるのか、資金返済の余力をチェックします。
債務償還年数について、金融機関は10年を一つの基準としており、それを超えると資金返済の余力なしと判断される可能性があります。
正常運転資金
正常運転資金とは、日常的な営業活動で必要になる運転資金で、下記のように計算します。
売上債権+棚卸資産-仕入債務
まず計算式に出てくる売上債権と仕入債務について。
売上債権は入金を待っているので、お客様にお金を貸している状態(仕入債務はその逆でお金を借りている状態)といえます。
つまり、貸しているお金が借りているお金よりも多いと、手元にお金がそれだけ足りていないということ。
また、商売のサイクルは、まず商品の仕入れとしてお金がでていき、売れてはじめてその商品の売上代金を回収できます。
つまり、売れなければ棚卸資産となって、お金を寝かせているという状態になります。
さらに、一般的に棚卸資産がお金に変わるまでには、売上→売上債権→お金というサイクルをたどるので、現金化されるまで時間を要します。
商売のサイクル
商品の仕入れ→棚卸資産→仕入代金の支払い→お客様へ販売→売上債権→現金回収
その意味で運転資金として必要な資金量を示したのが、正常運転資金なんですね。
まとめ
以上、銀行が貸せるかどうかの簡易診断ポイントを紹介しました。
ほとんどの場合、直近の2~3期で上記チェックをおこないます。
最終的に3つの要素を2~3期分計算しますので、複合的な判断になりますが、銀行は、はじめに紹介した簡易キャッシュフローがある程度でていないと、貸したお金が回収できないと判断します。
その意味で、3つの中で最も重要な要素であるといえます。
おさらいですが、もう一度、簡易診断のポイントをチェックしてみてください。
簡易診断ポイント
- 簡易キャッシュフローで、返済原資が確保されているかをチェック
- 実態債務超過の有無で、実質的に債務超過になっていないかをチェック
- 債務償還年数で、資金返済の余力があるかをチェック