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事業主貸と事業主借のちがい【意味と使い分け、税務調査の問題など】

2020年6月25日

事業主貸と事業主借の疑問

  • 事業主貸(借)の意味がわかりません
  • なんで法人ではでてこないのに、個人事業主ではでてくるの?
  • 事業主貸と事業主借は使い分けないといけない?
  • 翌期首に繰越すと消えているけど?
  • 金額が多すぎるとなにか問題でもある?税務調査とか不安・・・

くわしくは後述しますが、事業主貸(借)とは、事業とは関係ない「プライベート勘定」なので、個人事業主でしかでてきません。

翌期首に「あれ?消えた?」と思ってしまいますが、元入金という法人でいう資本金に吸収されています。

ご自身で理解していれば、使い分けはとくに必要ありません。

 

読み進めていただければ、もっとくわしく事業主貸や事業主借の意味だったり、正しい使い方、税務調査での注意点などが理解できるかと思います。

 

事業主貸と事業主借ってなんやねん

フリーランスや個人事業主の方は、プライベート用と事業用の線引きが難しいもの。

たとえば、仕事場所が自宅兼事務所だったり、自家用車を移動手段としていたり、自分の貯金を事業資金としたり、などなど事業活動にプライベート資産が活用される機会が多いもの。

これが問題というわけではありません。

ですが、経理処理はプライベート用と事業用をキチンと分けなければなりません。

そこで登場するのが、事業主貸と事業主借。

 

事業主貸(借)の意味がわかりません

事業主貸と事業主借は、フリーランスや個人事業主の方の経理処理を正しくするために使われます。

正しく経理処理するとは、経費になるものとならないものを分けるということ。

前提として、事業主貸や事業主借という事業主勘定は、プライベート用という意味なので、経費や収入にはなりません。

それぞれの意味を説明する前に、フリーランスや個人事業主の課税方法を簡単に確認しておきます。

 

フリーランスや個人事業主の課税方法

フリーランスや個人事業主の方は、1月から12月までの一年間の収入から経費を差し引いた利益に所得税が課税されます。

利益に課税されるという点では、法人とおなじです。

ですが、フリーランスや個人事業主の方は、利益を計算する過程で、経費の範囲が限定的です。

理由は、フリーランスや個人事業主の方は、プライベート用と事業用の線引きが難しいから。

また、フリーランスや個人事業主の方は、自分に給料を払えません。自分の社会保険料も経費(ただし所得控除になる)になりません。

じゃあ、わたしはどうやって暮らしていったら良いんだ?死ねということか!?

 

ってなるかもしれませんが、そうではありません。

さきほど、利益に所得税が課税されるといいましたが、その利益すべてが、フリーランスや個人事業主の方の年収ということになります。

その意味で、フリーランスや個人事業主の方は、自分に給料を払えないんです。

言い方を変えると、事業用資金としてストックしているお金は、すでに課税されたあとのお金なので、プライベートで使おうが、事業用で使おうが、自由なんです。

 

事業主貸の意味

事業主貸は下記のように仕訳するので、資産項目にでてきます。

仕訳例

事業主貸 ××× / 現預金 ×××

そして事業主貸の意味は、このようにまとめられるかと思います。

事業主貸の意味

  • 事業主へお金を貸した
  • 事業主にお金を払った
  • 事業主のプライベートにお金を使った

要するに、事業主の生活費として出金したということ。

フリーランスや個人事業主の方は、利益すべてが年収ということになるので、生活費は当然そこから賄います。

ですので、事業主貸は必ずでてきますし、でてこないと、「どうやって生活しているの?」という疑問が湧いてきますよね。

この疑問は税務調査によるものですが、ここは後述します。

 

事業主借の意味

一方、事業主借は下記のように仕訳するので、負債項目にでてきます。

仕訳例

現預金 ××× / 事業主借 ×××

そして事業主借の意味は、このようにまとめられるかと思います。

事業主借の意味

  • 事業主からお金を借りた
  • 事業用の経費を事業主に払ってもらった
  • 預金利息が発生した

要するに、事業主のお金を事業用に使わせてもらったということ。

事業主借は事業主貸と違って、必ずでてくるというものではありません。

なので、事業主借が極端に多過ぎると、「そのお金はどこからやってきたのか?」という疑問が湧いてきます。

この疑問も税務調査によるものなので、ここは後述します。

 

なんで法人ではでてこないのに、個人事業主ではでてくるの?

法人はプライベート用などという考えが無いので、事業主貸と事業主借という事業主勘定はでてきません。

強いていうなら、法人では意味合いが近い勘定科目として「役員貸付金」とか「役員借入金」が使われますが、取り扱いは全然違います。

フリーランスや個人事業主の方が、ひとり社長として法人での商売を開始した場合(法人成りといいます)でも、プライベート用という考えはありません。

なので、ひとり社長として法人を設立した場合でも、会社のお金に手をつけると、帳簿に残りますので、返済しなければなりません。

わたしが作った会社なんだから、返済しようが、しまいが一緒やん

って方も、たまにいらっしゃいます。

たしかにそうなんですが、税務署はそう見てくれません。

ずっと返済されない役員貸付金や仮払金は、給与として課税されたり、会社が返済できない役員借入金は相続財産として課税されたりするんです。

 

事業主貸と事業主借は使い分けないといけない?

年末に相殺、どちらか残った残高を決算書の貸借対照表に記載するので、キチンとした使い分けができなくても良いのかなと思います。

ですが、あとから見直してもわかりやすく経理処理するという意味では、使い分けて仕訳した方が良いでしょう。

 

事業主貸の仕訳例

生活費の引き出し

■事業用預金口座から生活費として30万円引き出した場合

事業主貸300,000 / 預金300,000

フリーランスや個人事業主の方は、自分の給料を経費にすることはできないので、生活費の引き出しは、事業主貸を使って仕訳をきります。

 

社会保険料の支払い

■事業用預金口座から自分の国民年金と国民健康保険料あわせて10万円支払った場合

事業主貸100,000 / 預金100,000

フリーランスや個人事業主の方は、自分やご家族の社会保険料を経費にすることはできないので、これも事業主貸を使って仕訳をきります。

ただし、社会保険料は、確定申告の際、所得控除として所得金額から控除できますので、お忘れなく。

 

自宅兼事務所の家賃支払い

■事業用預金口座から自宅兼事務所の家賃15万円を支払った(事業使用割合は30%)場合

①地代家賃150,000 / 預金150,000

②事業主貸105,000 / 地代家賃105,000

事業用預金口座から15万円というお金がでていっているので、それをまず①で記帳します。

次に、プライベート用を事業主貸に科目を振り替えます。

15万円のうち70%がプライベート用なので、10.5万円の地代家賃という経費をマイナスにして、事業主貸へ振り替えるというかんじです。

 

所得税の納付

■事業用預金口座から所得税7万円を納付した場合

事業主貸70,000 / 預金70,000

所得税は経費にはならないので、プライベート用の事業主貸で処理を行います。

経費にしている方、結構多いと思います笑

ご注意ください。

 

事業主借の仕訳例

事業用資金の補充

■事業用資金が不足したので、個人口座から事業用預金口座に40万円振り込んだ場合

預金400,000 / 事業主借400,000

事業主からのお金の振込みは、事業主借を使用します。

 

事業用経費の立替払い

■仕事でつかうパソコン8万円をカード払いで購入した場合

消耗品費80,000 / 事業主借80,000

プライベート用のパソコンではなく、事業用のものを個人の立替払いで購入したので、この場合も事業主借を使用します。

 

給料の振込みがあった

■本業とは別にアルバイトをしていて、給料の振込み(額面100,000円・源泉3,600円)があった場合

①預金96,400 / 事業主借96,400

②仮払税金3,600 / 事業主借3,600

給料は事業の収入ではないので、事業主借を使用します。

また、源泉徴収された所得税は、仮払税金としていますが、事業主貸を使っても問題ありません。

なお、この給料については確定申告の際、給料の支払先から受取る源泉徴収票をもとに、給与所得として申告することになります。

 

事業用預金口座の利息

■事業用預金口座に10円の利息が振り込まれた場合

預金10 / 事業主借10

間違っていたとしても影響ない金額でしょうが、事業用預金口座の利息は収入にならず、事業主借を使うんです。

事業用預金口座であっても、あくまで個人のお金なので、それに紐づく利息も個人のお金となります。

 

年度末での事業主貸と事業主借の相殺

相殺仕訳

■事業主貸360万円と事業主借120万円を相殺し、事業主貸を貸借対照表に記載する場合

事業主借1,200,000 / 事業主貸1,200,000

相殺することによって、事業主貸が240万円残ることになりますので、これをそのまま貸借対照表の事業主貸欄に金額を記載すればOKです。

 

翌期首に繰越すと消えているけど?

会計ソフトや税務ソフトを使っている場合は、翌期首に繰越すと、事業主貸や事業主借は消えています。

まっさらに消えたのではなく、元入金というところに吸収されています。

元入金って?

元入金とは、簡単にいうと個人事業主の資本金のようなもの。

法人の資本金とは違って、毎年変動しますが、事業の元手となる資金を表します。

この、元入金は毎年変動しますが、計算式は、下記のようなイメージです。

元入金の計算式

翌期首の元入金=前年の元入金+前年の利益(青色申告特別控除前)+事業主借-事業主貸

計算式の意味は、ざっくりいうと、「これまでの儲けから生活費を引いたものが個人版資本金でっせ」というかんじ。

 

金額が多すぎるとなにか問題でもある?税務調査とか不安・・・

不正をしていなければ、それほど大きな問題になることはありません。

ですが、事業主勘定が多すぎたりすると、「税務署に疑われるかもしれない」というお話します。

 

事業主貸が多すぎる

さきほど、事業主貸は生活費の要素が大きいので、でてきて当然だといいました。

その意味で、年間の生活費程度であれば何も問題ありません。

また、多すぎたりしても、課税されたあとのお金ですので、税金さえ納めていれば、税務署にお金の使いみちをとやかく言われる筋合いはありません。

 

注意すべきは、利益とのギャップがあまりにも大きい場合です。

たとえば、個人事業主としての収入が1,000万円で、経費が400万円、所得(利益)が600万円の方が、毎年1,500万円だったり2,000万円の事業主貸があると不審に思います。

この人、600万円の年収なのに生活費多すぎない!?

どこからそのお金が発生しているの?

そもそも、この収入1,000万円以外になにかあるのか?

売上を除外しているのか?

なんか怪しいから税務調査に行こうか

税務署でなくても、こんな疑問が湧きますよね?

誤解を与えないために、所得(利益)に比べて事業主貸が多すぎないか、間違えはないかをチェックしてみてください。

 

事業主借が多すぎる

事業主借は、事業主個人からの借入金のようなものでした。

それが多すぎる場合は、こんな疑問を持たれます。

この人、事業規模の割に結構お金持ってんねんな

そのお金はどこからやってきたんやろ?

ほかに所得があるんかな?

それとも最近相続があったんかな?

まえはどこに勤めてたんやろ?

それともなにか商売していた人か?申告状況はどうなってた?

そう、事業主借は続々とでてくるんです。

要するに、「事業主個人がなんでそんなにお金を持ってんねん」って疑問です。

たとえば、個人事業主として開業する前に年収400万円で4~5年ほど働いていた方が、事業用の資金として1,000万円も2,000万円もつぎ込むことはなかなかできませんよね?

なにかほかにお金の出所があるはずなんです。

税務署はその出所を知りたいんですね。

キチンとした理由があればなにも問題ありませんが、事業主借も多すぎると税務署にへんな誤解をあたえることになるのかもしれません。

 

まとめ

むかし、わたしも法人と個人事業主の経理処理の違いが理解できなくて苦労した記憶があります。

また、最近、お客様から事業主貸や事業主借、自分の給料の考えについて質問を受けました。

事業主貸や事業主借の考えは、少しややこしいかもしれませんが、理由(プライベート用と事業用の線引きが難しいことと、課税方法の理屈)を知れば、すんなり理解できるかと思います。

-会計・経理, 個人の税金