日を追うごとに新型コロナウイルスによる影響がどれだけ続くのかわからなくなってきました。
さらに、緊急事態宣言が発令されると、これまでの自粛ムードから、なんでもかんでも強制になるのかもしれません。
企業活動も当然に制限を受けることになるので、その影響は計り知れません。
そうなった場合、前期業績が良かった企業も一気に赤字に転落するでしょう。
業種・業態によっては、すぐに影響がでなくても、今後、赤字企業が増えてくるのは確実ではないでしょうか。
さて、税理士として、発信できる情報は非常にちっぽけですが、今回は、前期業績が良かった企業が赤字企業になってしまったときに税金の還付が受けられる制度を紹介しようと思います。
その制度は、欠損金の繰戻し還付といいます。
欠損金とは赤字のことです。
欠損金は、10年間にわたって繰越控除(黒字と相殺)できるというのは有名ですよね。
しかし、欠損金には10年間にわたって繰越控除することを放棄する代わりに、税金の還付を受けることができる制度もあるんです。
詳細は後述しますが、今期発生した赤字を前期の黒字にさかのぼってぶつけ、前期に納めた税金を返してもらうというもの。
ただし、現在のところすべての企業が利用できる制度ではなかったり、注意点もありますので、そのあたりついてまとめたいと思います。
欠損金の取扱い
欠損金(赤字)の使いみちは、将来の黒字と相殺する繰越控除と、一年前の黒字にぶつけて還付を受ける繰戻し還付という2つの選択肢が法人には与えられています。
一般的には、前者が良く利用されており、繰戻し還付は人気がありません。
それには理由があります。
税金の還付請求という行為なので、税務調査がおこなわれる可能性が高まるからです。
なので、中小企業経営者の多くは、敬遠するんですね。
しかし、欠損金の繰戻し還付をしたからといって、必ず税務調査がおこなわれるとは限りません。おこなわれない場合も全然あります。
税務調査がおこなわれたとしても、それはたまたま順番が回ってきたとか、売上や、ある特定の経費が突出して増えたとか、他の要素も影響するので、ほんとうのところは誰もわかりません。
現在のような新型コロナウイルスの影響を受けている状況では、先行きが不透明なので、ほとんどの企業で繰戻し還付を選択する方が良いのではないでしょうか。
いま欠損金の繰戻し還付を利用した方が良い理由
- 還付を受けて資金繰りに役立てることができる
- いまは繰戻し還付が税務調査の引き金にはならないのでは!?
還付を受けて資金繰りに役立てることができる
今後も法人税率が大きく変動しないという前提条件は付きますが、新型コロナウイルスの影響を受けている状況では、先行きが不透明なので、一年後、二年後どうなっているのかを考えるよりも、まずは目先の資金繰りを考えることの方が重要です。
なので、いま発生した赤字を将来の黒字に使うことよりも、いま使うことに意味があるように思います。
資金が豊富にある場合や、一年後に大きな黒字になることがわかっている場合など、企業によって様々なので一概にはいえませんが、先行きが不透明な状況であれば、欠損金の繰戻し還付を利用した方が有利ではないでしょうか。
いまは繰戻し還付が税務調査の引き金にはならないのでは!?
一般的に税務調査の対象となる企業は、黒字企業です。
ずっと赤字の企業はほとんど選ばれません。なぜなら欠損金が大量にある企業で売上の漏れを見つけたとしても、大量にある赤字と相殺されては税金が取れませんよね。なので、行っても仕方ないから行かないんです。
次に、黒字企業のなかでも、前回の調査から3年以上経過している、数字が大きく変動していることなどが選定理由として挙げられます。
これらのことを前提に私見を述べると、年数については設立から10年経っても来たことがない会社もあれば、3年後にきっちり来られた会社もありますので、これで選ばれるのは仕方ないとして・・・
現在の新型コロナウイルスの影響を受ける企業は、どこも数字が大きく変動しているはずです。
また、資金繰りに困っている企業も多いので、欠損金の繰戻し還付を利用する企業も増えるはずです。
要は、みんな同じ、似たような状況なのではないかと。
そんな状況なので、少なくとも数字が大きく変動したことで繰戻し還付を利用しても、それが直接的に税務調査の引き金にはならないのではないかと思っています。
欠損金の繰戻し還付とは
この制度は、青色申告書を提出する法人に赤字が生じた場合、その赤字が発生した事業年度前1年以内の事業年度に繰り戻して、その赤字に相当する所得に対する法人税を還付請求により還付するというものです。
よくわかりませんよね?
では、実際にいくら還付されるのか説明します。
実際いくら還付されるのか
簡単に説明したいので、地方法人税は考慮していません。
前期
所得金額800万円
法人税額120万円
当期
欠損金額1,200万円
還付される法人税
120万円 × 800万円(欠損金額) / 800万円(前期の所得金額) = 120万円(還付される法人税)
前期に納付した法人税120万円は、所得金額800万円をもとに課税されていますので、それを当期発生した1,200万円の欠損金額をぶつけることで、前期の所得金額はゼロになります。
結果的に、前期に納付した法人税の全額を返してもらうということになるんですね。
また、この場合は、当期発生した1,200万円の欠損金額のうち、800万円を繰戻し還付に利用したので、翌期に繰越す欠損金は400万円ということになります。
この制度を利用できる会社とは?
すべての会社で欠損金の繰戻し還付を利用できるわけではありません。
いくつかの適用要件があります。
適用要件
- 前期から当期までの各事業年度において連続して青色確定申告書を提出していること
- 当期の申告書を期限内に提出していること
- 当期の確定申告時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出していること
適用要件としてはこのようなかんじです。
青色申告書を期限内に毎回提出していて、欠損金がでた事業年度に、欠損金の繰戻し還付の用紙を記載するだけでOKなんです。
ただし、この制度の利用が制限されている会社もあります。(今後の状況次第ですが、現在利用が制限されている会社にも適用できるような議論はされているようです)
下記以外の会社は欠損金の繰戻し還付を利用することはできません。
欠損金の繰戻し還付が受けられる会社
- 普通法人のうち、その事業年度終了時の資本金や出資金の額が1億円以下であるもの
- 公益法人等または協同組合等
- 法人税法以外の法律によって公益法人等とみなされているもの
- 人格のない社団等
基本的に資本金が1億円以下の中小企業であれば利用することができますが、資本金の額や出資金の額が5億円以上である法人に完全支配されている会社などは除かれているので、注意してください。
この制度を利用するためには?
前提として、前期は黒字で法人税を納付していて、今期は一転赤字になったという場合に利用できます。
その際、適用要件にも挙げられていますが、「欠損金の繰戻しによる還付請求書」の記載を忘れず提出しましょう。
まぁ、納税者自ら書いて提出するものではないと思うので、関与している税理士に任せましょう。
あと、もし適用要件や前提条件をクリアしていても、税理士から提案がない場合もあります。
そのときには、この制度は利用したいと伝えましょう。
まとめ
何度もいいますが、いまは、適用要件や前提条件をクリアしていれば、繰越控除よりも繰戻し還付を受けるべきです。
みんなが同じ状況では、繰戻し還付を利用したからといって、そこをターゲットにして税務調査なんかおこなわれませんて。(まじめに経営されていることを前提としてですよ笑)
いま発生した赤字は、いま使って、資金繰りに利用しましょうというお話でした。