法人税法上、中小企業であれば一年当たり800万円の経費枠が与えられているのは有名な話。
中小企業といっても規模は様々なので、一年当たり800万円では足りない会社も多いのではないでしょうか。
枠が決められているので、なるべくその枠は空けておきたいですよね。
交際費処理しなくて良い経費で、その枠を埋めるのは勿体ないです。
今回は、交際費の枠を少しでも空けられるよう、交際費と広告宣伝費のちがいについてお話ししようと思います。
交際費と広告宣伝費を区分するポイントは、不特定多数を対象にしているかどうか、ここで判断してください。
なんとなくちがいがイメージできても、少し判断が迷う似たようなものがでてくると、安全策をとって交際費処理してしまいがちです。
読み進めていただき、正しく、交際費と広告宣伝費の使い分けができるようにしてください。
交際費と広告宣伝費のちがい

まず法人税法上、交際費は下記のように定められています。
「交際費等」とは、交際費、接待費、機密費、その他の費用で法人がその得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう・・・
措法61の4(1)-1 交際費等の意義より一部抜粋
この交際費の内容と範囲を確認していきます。
交際費の範囲
過去の判例では、交際費に該当するためには次の3要件を満たすことが必要だとされています。
①支出の相手方は、事業に関係がある者等か
②支出の目的は、事業関係者との取引を円滑にするためか
③接待、供応、慰安、贈答などの行為であるか
3つを要約すると、取引先に対して、お酒や食事でもてなしたり、贈り物などをして、事業取引を円滑に進めるために支出する経費ですね。
とくに支出の相手方と目的の範囲を理解しておくことが大事です。
支出の相手方とされる事業関係者には、会社の取引先だけではなく株主や金融機関、関与する税理士などの利害関係者や、役員や従業員も含まれています。
支出の目的は直接的なものだけではなく、間接的なものも含まれます。接待などのために支出する一切の経費が含まれるイメージですね。
例えば、取引先との飲み会後、終電がなくなったことにより、帰宅のタクシー代を負担することもあるでしょう。これは旅費交通費ではなく、交際費に含まれるんです。
広告宣伝費の範囲
広告宣伝費とは、不特定多数の者に対する宣伝効果を意図するものです。
この不特定多数の者とは、一般的には消費者を想定しているとされています。
ポイントは不特定多数の者への宣伝効果ですね。
例えば、取引先へ自社製品や商品の見本を提供することがありますが、これは取引先という特定の者に提供しているので交際費かなとも考えられますよね。
でも、目的は取引先との取引を円滑にするためではなく、取引先の後ろにいる一般消費者への宣伝効果を期待していると考えられるので、この場合は交際費ではなく、広告宣伝費になります。
ただし、取引先へ自社製品や商品の見本を提供することについて、後述しますが、注意すべき点もあります。
なにを基準に経理処理したら良いのか
交際費と広告宣伝費それぞれの判断基準は、ともに支出の相手方と目的、その行為がどうなっているのかの3要件を満たしているかを確認すれば良いと思います。
交際費は相手方が限定された事業関係者、一方、広告宣伝費は不特定多数の一般消費者でしたね。
交際費の支出の目的は、事業関係者との取引を円滑にするためです。一方、広告宣伝費は、一般消費者への周知や宣伝効果を目的にしています。
ただし、行為だけで交際費か広告宣伝費を判断するのは難しいので、その目的がなにかを意識すれば良いでしょう。
ご自身で理解度をチェックしてみてください

では、これまでにお話しした内容を下記の事例では交際費になるのか、広告宣伝費になるのかチェックしてみてください。
当選者に金品や旅行に招待する費用
いわゆるビール会社なんかがよくやっているキャンペーンみたいなことですよね。
抽選により一般消費者に金品を渡したり、旅行に招待するようなもの。
わたしも、あまり飲まないアサヒビールのシール集めしていて、東京オリンピックの観戦チケットをゲットしようと頑張っています。
この経費って交際費でしょうか、広告宣伝費でしょうか?
広告宣伝費ですよね。
行為自体は、贈答や慰安に該当しますが、目的はキャンペーンをすることで、不特定多数の一般消費者へ購買意欲を高めるための宣伝ですね。
複数の販売店に金品や旅行に招待する費用
上記の場合は当選者でした、では、おなじくビール会社が全国各地の多数の販売店に金品や旅行に招待する費用は交際費でしょうか、広告宣伝費でしょうか?
交際費ですね。
全国各地の多数の販売店は、いくら数が多くても不特定多数の一般消費者ではないので、事業関係者に該当し、目的は、自社製品を多く売ってもらうためなど、事業関係者との円滑な取引を意図しています。
ビール会社が飲み屋さんに見本品を提供した費用
またまたビール会社ですが、飲み屋さんや、バー、酒屋に新商品の見本品を提供した費用は交際費でしょうか、広告宣伝費でしょうか?
これは交際費なんです。
判断基準でいくと、広告宣伝費ですよね。
この費用が交際費になる理由は、見本品を受取ったこれらのお店は、必ずしも一般消費者に無償で提供するとはいえません。転売も可能ですよね。
その意味で、不特定多数の一般消費者を対象に宣伝を目的にしたものとはいえません。
例えば、医薬品の製造業者が医師や病院に見本品として渡す費用や、化粧品の製造業者が理美容業者へ見本品を渡す費用なども同様の考え方をします。
見本として提供したものが、転売や商売で利用可能であると、広告宣伝目的ではなく、事業関係者との取引を円滑にするという目的が勝ってしまうので、ご注意ください。
まとめ
紹介した交際費と広告宣伝費の事例は判断が簡単でしたが、実務上、線引きが難しい事例ばっかりですよね。
それこそ税務署と見解の相違が生まれる原因にもなりかねません。
だからといって、安全策で交際費処理するのではなく、上記判断基準を押さえたうえで、自社ではこのように判断したというプロセスを示すことも大事だと思います。
税務署や税理士の見解がすべて正解ではありません。
自社の経理です。
法律を理解したうえで、自社の見解を反映させた経理処理が大事なのではないでしょうか。