体脂肪計や、タニタ食堂など、からだの健康をテーマに様々なところで有名なタニタ。
情報が遅いのかもしれませんが、最近、同社が新しい働き方を導入したことを知りました。
また、タニタは非上場の会社だったんですね。イメージで勝手に上場していると思っていました。
同社は2017年に開始した新しい働き方として、同社の社員を個人事業主にしたとのこと。
制度としては、これまで雇用契約関係にあった社員を一旦、退職させて新たに業務委託契約を結ぶというもの。
これまで雇用契約にあった社員は副業禁止だったが、個人事業主となった元社員は副業や出退勤など自由におこなえるようになります。
仕事内容については、独立直前まで取り組んでいたことを「基本業務」として業務委託契約を結びます。
報酬についても同様で社員時代の給与・賞与だけではなく、通勤費、社会保険料、福利厚生費を含んだものが「基本業務」に対する「基本報酬」とします。
なお、契約期間は3年で毎年契約を結ぶようです。
働き方改革を残業削減と単純に捉えず、適切な報酬を受け取りつつ、働く時間と自己研鑽に充てる時間を自身でコントロールできることを目的としているようです。
2017年1月スタートの同制度は、3年目で26人が独立し、独立した社員の平均収入も上がっているとのこと。
社員の収入が増えるということは、会社の負担が増えたのでは?と思いますが、会社の負担増加は1.4%とそれほど大きな影響はない様子。
賛否両論ありそうですが、わたしは非常に良い制度ではないかと思いました。
国税としてはあまり流行ってほしくない、認めたくないことなのかなと感じたので、問題となりそうな税務目線で解説していきたいと思います!
雇用契約と業務委託契約の違い
雇用契約と業務委託契約の違いについて、何となく想像できそうですが、いざ説明するのは難しいですよね。
民法によると、雇用は下記のように定められています。
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
民法623条
内容を確認すると、雇用とは労働の対価として報酬が支払われることがわかります。
一方、業務委託には民法上、定義がないようで、請負と委任(準委任)の一種として契約内容により判断されるようです。
ちなみに、請負と委任の民法上の定義は下記のとおりです。(法律行為以外の準委任については、民法656条に準用規定あり)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
民法632条
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
民法643条
請負は仕事の完成が報酬支払の要件となります。委任については、完成までの義務はないようです。(あくまで法律上ですが)
雇用契約は労働の対価、請負契約は仕事の完成の対価、委任契約(準委任)は仕事の結果などによって報酬が支払われるといった違いがあります。
業務委託契約は完成義務の有無で請負か委任の一種と考えます。
税務調査でよく問題になること
この業務委託について、外注費の勘定科目があれば、税務調査のとき、問題になることが多い論点。
問題にならなくても、必ずチェックされるところです。
問題になるということは、税務署側も「取れる」可能性が高いところなんでしょう。
おそらく、納税者側では雇用、請負、委任、業務委託の契約内容の線引きが曖昧なところなんだと思います。
以下、税務調査での指摘事項を列挙していきます。
源泉徴収の問題
まず、雇用契約者については、給与の支払い時に源泉徴収をおこないます。
一方、請負、委任、業務委託契約者については、支払う報酬等が源泉徴収対象者以外の方である場合は、源泉徴収が不要です。
なお、源泉徴収の対象になる方はこちら。
税務署が何を指摘したいかわかりますよね?
例えば会社が元社員とのあいだで業務委託契約として外注費を支払っていた場合、契約内容や実態を確認した上で、「実質的には雇用契約者ではないですか?源泉徴収していないですね。」と言いたいんです。
この場合、めんどくさいことが起こります。
最終的に、この源泉所得税は元社員が納付すべきものです。しかし、報酬支払時に源泉徴収して納付する義務は会社にあります。
ですので、会社に源泉徴収義務を怠っているから、一旦税務署へ源泉所得税をその人に代わって納付しろとの理屈です。
そして、会社は後日、元社員から立替えた源泉所得税を返してもらう、元社員は更正の請求などして会社へ支払った源泉所得税の還付手続きをするという感じになります。
登場人物みんながめんどくさい感じになります。
消費税の問題
会社は消費税について、受け取った消費税(売上の消費税)から支払った消費税(経費の消費税)を差し引いて、残った分を納税します。逆に支払った消費税の方が多かった場合は還付になります。
さて、消費税法上、雇用契約者は事業者には該当しないため、その方々への給与は、この場合の支払った消費税に含まれません。
一方、業務委託契約者は事業者に該当するので、支払った消費税に含まれます。
先の元社員の事例で、業務委託契約者が実質的に雇用契約者と認定された場合、この方々への外注費の消費税分が否認されるので、その分を納税しなければなりません。
業務委託契約が税務署に否認されないための対策
民法上の雇用、請負、委任、業務委託を確認しましたが、簡単にいうと、雇用にならないように注意すれば良いということ。
消費税法基本通達で、このあたりの解釈基準があり、税務署はこれを参考にしています。
このうち一つに該当するからといって、業務委託契約が否認されるものではなく、契約内容と実態が下記要件に照らしてどうか総合的に勘案して判断されます。
ですので、業務委託契約書作成時には参考にしましょう。
任せる仕事は誰でもできる内容か
任せる仕事がその人でなければならないのか、誰でも良いのか。
任せる仕事をするのは誰でも良いということは、仕事の完成、結果だけを目的として依頼していると考えられます。
逆にその人でないといけない、その人に報酬を支払いたい場合というのは、報酬を支払うために、依頼できる仕事を無理やり作り上げた?労働の対価では?という印象を与えます。
依頼者の指揮監督を受けるかどうか
例えば仕事をするときに、依頼者にタイムカードなどで出退勤時間の管理をされていて、報酬がそれに基づいて支払われている場合は、雇用契約の色が強くなります。
また、仕事場所を日々指定する、仕事のやり方などについても細かな指示がおこなわれている場合も要注意です。
任せた仕事ができなかったときの報酬はどうなるか
任せた仕事が完成しなかった、結果が伴わなかった場合でも報酬の支払いをするのか。そして責任の所在は?
内容にもよりますが、このような状況でも恒常的に報酬が支払われている、責任が依頼者に帰属する場合は、仕事の完成、結果を目的としたものではなく、労働の対価としての色が強くなってしまいます。
仕事に必要な道具などは誰が用意するのか
業務遂行のために必要な用具などを依頼者が用意して仕事を任せた場合、受任者が提供するのは労働になってしまいます。そしてそこで発生する報酬は、給与です。
やはり結論は仕事の完成、完了を目的として依頼することが業務委託契約でしょう。
不測の事態に備える契約条項は必要ですが、基本的には目的達成のための方法、手段は問わないという契約内容、実態であることが重要です。
まとめ
社員を個人事業主にして消費税を少なくする脱税事件は本当に多いみたいですね。だから税務署も確認するんでしょう。
冒頭のタニタでは、業務委託元社員を「会社員とフリーランスの中間的存在」と認識しているとのこと。同社での経理処理はわかりませんが、国税の見解はどうなのか気になるところです。