中小企業の場合、割と見かける粉飾決算。
中小企業経営者が粉飾決算に手を染める要因としては、金融機関への借入を円滑に進めたい、公官庁の建設工事などの入札参加資格取得のためというケースが多いと考えます。
まさか税金を多く納税したいと粉飾決算なんかするわけなく、営業上、少しでも有利になりたいという経営者の心情の表れでしょう。わたしはお手伝いはしませんが、心情は理解できないわけではありません。
また、粉飾決算をしている経営者は、税務上、問題ないと考えているケースが少なくありません。
おそらく、「税金を通常より多く納税してんねんから問題ないやろ」という考えですね。
正直、税理士の中にもこの考えの方がいらっしゃいます。
確かに、税務上は問題ないのかもしれません。
でも、前に別の記事でも書きましたし、会計というものを仕事にする方ならわかると思いますが、粉飾決算は一度やってしまうとやめられないんです。麻薬みたいなもんですね。
一度、嘘をつくと、その嘘を正当化するため次の嘘をつく必要があるのと同じで、粉飾決算もどんどん嘘(数字)が膨らんでいくことになります。
その嘘はどうやってキレイにするのか。
今回は、税務上、粉飾決算をした嘘の処理事例についてみていきたいと思います。
法律上どうなっているのか
まず、納税者には国税の法律に従って計算していなかったり、その計算が間違って、通常よりも多く納税していた場合、法定申告期限から5年以内に限り、減額更正の請求がすることができるんです。
減額更正の請求とは、当初申告では1,000円納税していたけど、誤りが発覚し、再計算したところ、税金は600円だったので、納付しすぎた400円を返してくださいということ。
納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、十年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第二十六条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
国税通則法第23条第1項第1号
次に、税務署側にも権利が与えられています。
先ほどの事例で、400円納付しすぎた原因が、仮装経理だった場合、話が変わってきます。
納税者が、その粉飾決算の修正の経理をして申告しない限り、更正をしないことができるんです。
修正の経理とは、例えば棚卸資産を過大計上していたとすると、損益計算書の特別損失で前期損益修正損という科目で棚卸資産を減少させ、法人税申告書の別表調整(税金を計算する上では、この損失計上を取り消す調整をする)をすることとされています。
この修正の経理をしたうえでないと、税務署側は更正の請求には応じてくれません。
納税者が修正の経理をしない限り、税務署は何もしないということです。
税務調査のときに粉飾決算の事実を打ち明けたとしても、「じゃあ、税金返しますね。」とはならず、それ以外のところで淡々と税務調査が進められるだけで、粉飾決算についてはスルーされます。
内国法人の提出した確定申告書又は連結確定申告書に記載された各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額が当該事業年度又は連結事業年度の課税標準とされるべき所得の金額又は連結所得の金額を超えている場合において、その超える金額のうちに事実を仮装して経理したところに基づくものがあるときは、税務署長は、当該事業年度の所得に対する法人税又は連結事業年度の連結所得に対する法人税につき、当該事実を仮装して経理した内国法人が当該事業年度又は連結事業年度後の各事業年度又は各連結事業年度において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該修正の経理をした事業年度の確定申告書又は連結事業年度の連結確定申告書を提出するまでの間は、更正をしないことができる。
法人税法第129条第1項
修正の経理をサボった事例
粉飾決算は必ずいつか修正の経理をしなければ、決算書はキレイになりません。
それをサボったことによって、怒られ、争われた事例を紹介します。
棚卸資産過大計上損で処理した事例(東京地裁平成22年9月10日判決)
過去から棚卸資産の過大計上をおこなっていた原告が、ある事業年度にまとめて、損益計算書の特別損失項目に棚卸資産過大評価損として計上し、申告したところ、税務署より当該金額は損金算入することができないとして更正処分がおこなわれ、その取り消しを求めたという事例。
上述したとおり、会計上、修正の経理はできていますが、税務上の処理は適切ではなかったという事例で、過年度の粉飾決算での嘘を、ある事業年度でまとめて解消し、税金計算上も経費としていたというもの。
当然に税務上の経費としては認められないということで、納税者敗訴、上告不受理となりました。
機械装置に振替して減価償却処理した事例(平成26年10月20日裁決事例)
赤字決算を回避するために仕入勘定を減額して、実際には取得していない賃貸用機械装置を取得し、その後の各事業年度において減価償却費を計上していたという事例。
実際には取得していない機械装置を取得したと装った経理処理行為が、仮装・隠ぺい行為にあたるとして重加算税の賦課決定がされました。
当たり前ですよね。めちゃくちゃですやん笑
機械装置の取得年度で税金を多く納税しておいて、その後、少しづつ減価償却費を計上して税金を少なくすることで、プラスマイナスゼロ的な発想をしたんでしょう。
でも、そもそも機械装置なんか取得してないので、仮装・隠ぺい行為といわれて当然やし、架空の機械装置の取得金額は3,550万円と、高額なのでバレる確率がめちゃくちゃ高いのに、なんでそんなことしたんって不思議です。
まとめ
確かに、税務署はスルーするので、一旦ついた嘘をつき続ける覚悟があるなら、税務上は問題ないのかもしれません。
でも一時の営業上の有利性を確保するために粉飾決算をすれば、後々解消(修正の経理)するのが大変ですし、解消したとしても絶対に決算書や申告書に記録が残るので、これらの書類を見ればすぐにバレるんです。
また、粉飾決算をすると、悩みが増えるので、余計にしんどくなるんです。
勤務しているとき、そんな経営者をいっぱい見てきました。
綺麗事を言うつもりはありませんが、利益が出なければ粉飾決算よりも企業体質、経営自体を見直すべきではないでしょうか。その方が、結果的には楽なような気がします。