何となく分かっているつもりで、意外と「そんな方法もあったんや」と思うのが収益の計上時期について。今回は、会社が商品や製品などの棚卸資産を販売するケースを考えてみたいと思います。
商品は販売したけど、いつ売上に計上したらいいんだろうということです。
商品が相手方に渡った時?
請求書を発行した時?
代金をいただいた時?
実は、会社でいつ売上計上するのかということは、会社で決めることができます。
ただ、いくら会社で決められるといっても、いくつかのルールがあるので、今回はそれを解説していきたいと思います。
また、これから創業する方は、収益の計上時期を考えることで、またはすでに商売を始めている方は、収益の計上時期を見直すことが節税(どちらかというと資金繰りがラクになる)につながる場合もあります。
節税というと、どうしても経費のことばかりに目が向きますが、会社のおこなっている商売を見直して、その会社の商売に合った、本来採用するべき収益の計上時期を見直すことで、売上自体を翌年に計上できる可能性もあります。
今回の4つの収益計上基準を確認していただいて、自社の商売に合った収益計上基準を検討してみてください。
引渡基準と契約効力発生日基準
いきなり小難しい文言が並んでしまいました。
4つの収益計上基準の前に、商品や製品を販売したときの前提となる収益計上基準が2つあります。
まず、相手方に商品などを引き渡した日をもって売上を計上するというのが、引渡基準。
契約書で所有権移転など契約の効力が発生した日をもって売上を計上するというのが、契約効力発生日基準です。
商品などの販売に際し、双方で契約書を交わす場合は、引渡や所有権の移転に関することが契約条項で定められていることがほとんどなので、基本的に売上を計上する時期はこれによります。
例えば、不動産に関しては、契約条項で引渡日など明確にしていますよね。
一般的には、代金の支払いが完了し、所有権移転登記の申請をした日を引渡日として売上を計上しますが、継続適用を要件に契約日を引渡日として売上計上することもできます。
契約書を交わしていない、交わしていても契約の効力発生日が明確でない場合は、冒頭の4つの収益計上基準を選ぶことができます。
4つの収益計上基準とは、引渡基準の中でも、いつの時点をもって引渡しがあったかと考える基準です。
イメージとしてはこんな感じです。
以下、4つの収益計上基準を確認していきたいと思います。
出荷基準
出荷基準とは、出荷した日に商品などの引渡しがあったとして売上を計上します。
具体的には以下の場合です。
出荷日の具体例
- 店頭、倉庫などから相手方に出荷したとき
- 相手方が指定した受入場所へ搬入したとき
- 船積みや、貨車積みをしたとき
- 船荷証券の発行のとき
出荷基準を採用している会社は多いのではないでしょうか。
かなりむかし、出荷基準を採用している会社の税務調査で、このあたりが問題になり、結果的に更正の請求(税金の還付手続き)ができたということがありました。流れとしてはこんな感じです。
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1ある決算日間際の取引について質問を受け、調べていると、天候不良などにより出荷が翌事業年度になっていたことが判明
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2経理担当者は、売上を計上し、出荷していないので、棚卸資産在庫に含めて処理(売上だけが計上されていたので、仕入経費の計上を失念した状態となっていた)
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3売上の過大計上になっていたので、その分の納め過ぎていた税金を返してもらう
このようなこともあるので、会社がどの基準を採用しているのか確認することが重要です。
検収基準
検収基準とは、相手方に商品が到着して、検収などをおこなってもらった後、買い取りの意思表示をもって売上に計上する基準です。
この基準は、出荷基準に比べて、計上時期が遅れる、課税時期を繰延べることができるので、明確にしておかないといけないポイントがあります。
検収基準採用のポイント
- 検収時期と場所を契約書などにより明確にしておくこと
- 相手方の買い取りの意思表示をどのように受け取り、残しておくか
検収時期と場所については、店舗や工場に来てもらって行うのか、搬入した後、機械など設置が必要であれば動作確認後など明確にしておかなければなりません。
また、買い取りの意思表示は、納品書や領収書だけではなく、検収印や検収報告書などを受け取ることができて、保存しておくことが重要です。
使用収益可能基準
相手方が使用収益可能となった時に売上を計上する基準です。
具体的には不動産を販売する事業者が、引渡し不動産を相手方が使用収益した時に採用できる基準のようですが、これだといつまでたっても引渡時期が微妙なままになってしまうので、代金の50%を貰ったときや所有権移転登記申請の日のどちらか早い日を引渡日として売上を計上します。
検針日基準
これは業種がかなり限定されているのでほとんどの方には関係ないと思います。
検針日基準採用の要件
- ガス、水道、電気等の販売をする場合であること
- 週、旬、月を単位とする規則的な検針に基づき料金の算定が行われていること
- 会社が継続してその検針が行われた日において収益計上を行っていること
未だに検針にまわっている方っていらっしゃいますよね。その検針日をもって、引渡日として売上を計上する基準です。
出荷基準と検収基準の売上計上時期
例えば、3月決算の会社が、3/28に1,000万円の機械(製造原価400万円)を販売し、3/29に出荷、4/3に試運転や検収を経て検収書を受領した場合、二つの売上の計上時期の違いがどのような効果を生み出すのか確認してください。
出荷基準
- 3/29 売掛金1,000万円/売上1,000万円
- 3/31 製造原価400万円の差額600万円が利益計上される
検収基準
- 3/29 仕訳なし
- 3/31 製品400万円/期末製品400万円
- 出荷基準で計上された600万円は翌事業年度へ計上される
比較的、決算月の取引が多くなっている場合は、収益計上基準を見直してみることも良いのではないでしょうか。課税の繰延べなので、翌事業年度には課税され、効果は限定的ですが、資金繰りはかなり助かるはずです。
上記出荷基準であれば、さきに240万円もの税金(利益600万円×税率40%)が出ていきますが、検収基準だと240万円は出ていかないので、キャッシュを手元に残せておけます。
まとめ
収益の計上基準を確認してきました。
大前提として事業内容や棚卸資産の種類、業界の事情や契約内容などを考慮して合理的であることが求められます。
現実的にコンビニの経営者が我々消費者相手に検収基準なんか採用できませんよね。
また、会社が採用できる収益の計上基準は必ず一つではありません。営む業種が複数ある場合(例えば、卸売業と小売業をおこなっているなど)は、それぞれの業種ごとの計上基準を採用できます。
会社が一度採用した収益の計上基準は絶対変更できないわけではありません。変更することについて合理的な理由があって、継続適用すればOKです。
そういえば明確にしていなかった、なんとなく出荷基準でやっていたという場合は、収益の計上基準を見直してみてはいかがでしょうか。