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短期前払費用は本当に使える節税か!?【一時の節税効果はメリットでも、資金繰りではデメリット】

2019年9月12日

 

ちょっと今期は利益がでそうやな、税金をすこしでも安くしたいなという場合、こんなことを思ったことはありませんか?

経費を前倒しで落とせないかな・・・

この前支払った1年分の保険料は今期の経費にしても良いかな・・・

他になにか落とせるものはないかな・・・

こんなときは短期前払費用が使えるかと思います。

短期前払費用とは、まだすべてのサービスを受けていない費用でも、1年以内にサービスを受けるものは、支払った時に経費にしてもいいよというものです。

 

これだけ読むと「短期前払費用は節税に使えるやん」と思えますが、実はそんなこともありません。

たしかに一時の節税には効果があっても、1年分の経費をまとめて支払わなければならないので、資金繰り面ではデメリットといえるでしょう。

また、短期前払費用は、1年分の経費を支払えば、なんでもかんでもOKというわけではなく、色々とチェックすることがあります。

短期前払費用は、メリット・デメリットを理解したうえで、活用することをおすすめします。

 

短期前払費用は本当に使える節税か!?

短期前払費用は、そもそも論がかなり重要です。

そもそも支払った経費は、短期前払費用に該当しているかどうか。

なぜ、そもそも論が重要かというと、税務署から「これは短期前払費用ではないでしょう」と否認を受けたりすることが多いためです。

短期前払費用での節税を考える場合は、まず、その経費は短期前払費用に該当するか否かをチェックしてみてください。

短期前払費用とは?

  • 支払った経費は前払費用の要件を満たしているか
  • 支払った日から1年以内に役務の提供を受けるものか
  • 毎期継続して適用しているか
  • 収益と費用が対応していて、重要性の原則に基づいているか

上記要件の1つ目と2つ目は、短期前払費用についての定義、3つ目以降は短期前払費用の運用上の注意点というイメージです。

これらの要件をクリアしたうえで、短期前払費用の取扱いのポイントを押さえてください。

 

支払った経費は短期前払費用なのか?

確認の順番としては、まず前払費用に該当するのかどうかです。

前払費用とは、下記のように定められています。

前払費用とは、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいいます。
前払費用は、原則として、支出した時に資産に計上し、役務の提供を受けた時に損金の額に算入すべきものです。

国税庁ホームページ N0.5380 短期前払費用として損金算入できる場合より

そして短期前払費用は、前払費用のうち、その支払った日から1年以内に役務の提供を受けるもので、支払金額をその事業年度に損金経理した場合には認めるよというもの。

前払費用の原則的処理は一旦資産計上して、時間の経過とともに経費にします。前払費用のなかでも支払日から1年以内のものであれば、支払ったときの損金でOKということ。

なので、まずは、前払費用に該当するかが重要です。

前払費用のポイントは以下のとおり。

前払費用のポイント

  • 契約に基づいた継続的な役務(サービスなど)の提供であること
  • 支払った費用のうち、翌期以降に役務(サービスなど)の提供を受けるものがあること
  • 当期中に支払っていること

注意すべきは、1つ目と3つ目なのかなと。

契約に基づいた継続的な役務(サービスなど)の提供の費用を、ちゃんと払っているのかということ。

なお、2つ目に関しては、契約期間や支払対象期間で判断し、時間の経過とともに費用になるものであればOKです。

契約に基づいた継続的な役務(サービスなど)の提供であるか

月払契約になっているにもかかわらず、短期前払費用の適用を受けたいからといって、1年分勝手にまとめて払う処理をすることは認められません。

月払契約を年払契約にしなければならないということです。

口頭で合意したと主張しても相手方が聞いていない、憶えていない場合も想定できるので、契約書は必ず交わしておきましょう。

次に、継続的な役務の提供で重要な要素があります。

等質・等量のサービス内容かどうか

「何やねんそれ」と思うかもしれませんが、受けるサービスの質・量が同じでなければならないということです。

具体的には、家賃、保険料、リース料などがこれに該当します。

ただしリース料について、所有権移転外リース取引は資産計上して減価償却することになりますので、(短期)前払費用からは除外されます。

 

一方、等質・等量のサービスとは考えられないものとして、下記のようなものが挙げられます。

等質・等量でないもの

  • 雑誌の購読料
  • 税理士顧問料
  • 複合機などの保守料

こういったものは、毎月の料金自体は定額かもしれませんが、月々の状況によって受けるサービス内容が変化すると考えられるので、等質・等量のサービスには該当しません。

そういった意味では、いま流行っているサブスクによる役務サービスは、等質・等量のサービスには該当しないため、短期前払費用の適用は出来ないことになります。

料金が定額であれば等質・等量のサービスに該当するのではありませんので、注意してください。

当期中に支払っていること

名前のとおり、短期前払費用ですので、決算時点で「短期未払費用」状態では適用できません。

お客様の中でも、特にベテランの経理の方は、未払状態でもOKと誤解している場合が多いので注意が必要です。

 

支払った日から1年以内に役務の提供を受けるものか

その支払い日から1年を超える期間のものは短期前払費用の適用はできません。

いくつかの具体例を確認します。

3月決算法人が毎年地代(4月から翌3月分)を3月末に前払いする場合

3月決算法人が毎年地代(4月から翌3月分)を3月末に前払いする場合は短期前払費用の適用OKです。

しかし、2月末に全くおなじ地代(4月から翌3月分)を前払いすると、短期前払費用の適用はできなくなります。

支払時点(2月末)から数えると1年を超えた支払対象期間(4月から翌3月分)となっているので、短期前払費用の適用はできません。

賃貸借期間2年の事務所家賃を毎月月末に翌月分を支払う場合

翌月分を前払いしているという不動産では一般的な場合です。

支払った日から1年以内に役務の提供を受けると考えられるので、この場合も短期前払費用の適用OK。

3月決算法人がリース期間4年のシステム装置にかかるリース料を12ヶ月分(4月から翌3月分)を3月末に前払いする場合

これも、さきほどの地代とおなじで、3月末に前払いする場合は短期前払費用の適用OKです。

しかし、2月末に全くおなじリース料(4月から翌3月分)を前払いすると、短期前払費用の適用はできなくなります。

支払時点(2月末)から数えると1年を超えた支払対象期間(4月から翌3月分)となっているので、短期前払費用の適用はできません。

なお、この場合のリースは、法人税法第64条の2第3項に規定するリース取引には該当しないことが前提です。

3月決算法人が税理士の顧問料12ヶ月分(4月から翌3月分)を3月末に前払いする場合

税理士の顧問料は毎月定額であっても月々のサービス内容は変化するので、等質・等量のサービスとはならず、短期前払費用には該当しません。

なので、支払日から1年以内に役務の提供を受けるものを1年分まとめて支払ったとしても、短期前払費用の適用はできません。

 

毎期継続して適用しているか

今期は利益がでそうだから短期前払費用を使いたい。

でも、来期はわからないから様子を見たい。

これはダメです。

毎期継続して適用することが求められます。

詳しくは後述しますが、毎期継続して適用することによって、短期前払費用の節税効果がなくなり、結果的にお金だけが出ていくということになってしまうので、個人的には意味のないことかなと思っています。

 

収益と費用が対応していて、重要性の原則に基づいているか

国税庁のホームページでは、下記のように示しています。

借入金を預金、有価証券などに運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められませんので注意してください。

国税庁ホームページ N0.5380 短期前払費用として損金算入できる場合より一部抜粋

紐付き関係にある収益と費用の計上時期がズレるのはダメということです。

似た事例として、サブリースもこれに該当します。

もらう賃料収入は期間対応しているにもかかわらず、経費としての支払家賃は短期前払費用を適用することはできないということです。

重要性の原則に基づいているか

会計学の重要性の原則とは、文房具や消耗品など重要性の乏しいものについては簡便な処理が認められるというもの。

短期前払費用は、この重要性の原則を税務上も認めるという趣旨のもと、支払時に損金にできるというものなんです。

なので、ざっくりした言い方ですが、やりすぎはダメです。

上述した要件をすべて満たしたとしても、高額なものは否認されるということ。

金額基準に明確なものはありませんが、書籍によっては、売上比率や利益比率、販売費及び一般管理費に占める割合で高額かどうか判断するなど、情報は様々です。

しかし、判例では法人の売上や利益などの規模の比較と同時に、金額そのものが高額と判示しているものもあるので、高額過ぎる短期前払費用は否認リスクがあると考えるべきでしょう。

 

短期前払費用を適用した結果、節税と資金繰りはどうなるのか

短期前払費用が節税の効果を発揮するのは、適用初年度のみです。

注意ポイント

3月決算法人が、毎月の地代(10万円/月)を3月末に1年分まとめて支払った場合

■一年目の地代家賃

10万円×11ヶ月(4月~2月支払い分)+120万円(3月支払い分)=230万円

■二年目の地代家賃

120万円(3月支払い分)

■三年目の地代家賃

120万円(3月支払い分)

毎期継続適用することで、節税としては全然意味がないと考える方が多いと思います。

資金繰りの面では逆に損しているのかなと。

毎年継続適用なので、節税効果は初年度だけです。

例えば120万円の短期前払費用をした場合、節税効果は税率40%として48万円です。

お金は72万円(120万円-48万円)出ていきます。

うちの会社は現在、手元現金が300万円あり、利益は200万円でそうです。

今期より地代120万円を短期前払費用で節税しようと思いますが、どうでしょうか?

この場合、試算してみると下記のようになると思います。

  短期前払費用する 短期前払費用しない
①利益 200万円 200万円
②短期前払家賃 ▲120万円
③課税所得(①-②) 80万円 200万円
④税金(③×40%) ▲32万円 ▲80万円
⑤残った現金 148万円 220万円
税金は減るけど、お金が72万円も先に出ていくってことですか・・・

やめとこうかな・・・

ってなりますよね。

また、何度もいいますが、節税効果は初年度だけなので、翌期も同様の利益だとすると、短期前払費用をしない場合とおなじ税金が発生します。

怖いのは、この地代家賃を払い続けている以上、初年度で発生した72万円のお金の溝は埋まらないんです。

このお金を犠牲にして、初年度限りの節税効果を取る必要があるのか疑問ではないでしょうか。

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