
この質問は同級生と飲んでいるとき必ずといっていいほど受ける質問です。

給与所得控除って名前やねんけどな。


例えば、年収500万円やったら144万円。
ただ、もしその144万円の半分の72万円を超える経費を使った場合、超過した分を追加控除してくれる制度もあるよ。
まあまあ引いてくれてるねんなぁ・・・
で、追加分もあるんや。知らんかったわ。

というかんじで、すでに概算経費として控除されていることや、サラリーマンの方も場合によっては経費が落とせるという制度があるってことはほとんど知られていません。
みなさんは決して無知なわけではなく、単純にサラリーマンの方は源泉徴収や年末調整で納税が完了していることがほとんどです。
しかし、いまは、ふるさと納税や医療費控除などで自主的に確定申告をする方も多いと思います。
そして、資格取得を目指して勉強しておられる方や、仕事で必要な知識や技術を身につけるために自費で積極的に研修などに参加される方も多いでしょう。
そんな方々にとって、少しでもそれらの経費を落とすことで税金の還付を受けることができるかもしれませんので、読み進めていただき、活用していただければと思います。
サラリーマンの経費は、給与所得控除と特定支出控除
サラリーマンで統一しますけど、給与所得者ですね。
この方々にももちろん経費を落とすことは認められています。
ただし、方法は2つだけです。
-
概算経費である給与所得控除をつかう
- 概算経費である給与所得控除を使いつつ、実費分を上乗せする
この2つの経費についてお話していきます。
概算経費である給与所得控除
なんでもそうですが、売上を獲得するためには原価(経費)が必要になってきます。
給与についても同様に、給与を得るために必要な経費がかかっているはずと考えられています。
そこで、用意されている制度が、給与所得控除というもの。
こんな制度知らなかったという方、安心してください。何もしなくても会社側で適用してくれているはずです。
毎月の給与から天引きされる源泉徴収や、年末調整は、概算経費である給与所得控除を考慮したうえで計算されています。
この給与所得控除は、下記のように年収別に概算の経費額が決められています。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額(概算の経費) |
1,800,000円以下 |
収入金額×40%-100,000円 |
1,800,000円超 3,600,000円以下 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,000円超 6,600,000円以下 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,000円超 8,500,000円以下 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,000円超 | 1,950,000円(上限) |
例えば、年収600万円の方だと、年間164万円の経費が計上されていることになります。
結構大きいですよね。
サラリーマンの方は、通勤費やパソコン、仕事で使う備品などは、通常会社が用意しますよね。
また、取引先との会食についても通常は会社負担となっているはずです。
考えられる経費は、スーツや靴、カバンなどの衣服費、新聞、雑誌、本などの図書費、セミナー代などの研修費ではないでしょうか。
これらで年間164万円はなかなか使わないと思います。
なので、実態としてはそれほど使っていなくても経費として落としてくれていたんですね。
しかし、こんな志の高いこんな方々のために、特定支出控除というものも用意されています。
こんな方は特定支出控除の確認を!!
- 転勤や単身赴任をしていて、自宅までの交通費が結構かさんでいる
- 専門的な仕事なので、会社から知識や技術習得のための研修で結構出費がかさんでいる
- 弁護士、会計士、税理士などの資格取得の支出が結構大きい
こんな方々は、是非、特定支出控除という制度を確認してみてください。
概算経費である給与所得控除+実費分を上乗せする特定支出控除
特定支出控除とは、特定支出が上記の給与所得控除額の半分を超えた場合、確定申告をすることによって、その超える部分を上乗せして控除できる制度です。
例えば…
年収600万円の方が弁護士資格取得のために、ロースクールに通い、学費などで年間150万円を使った場合、給与所得控除はどうなるのか。
- 給与所得控除:164万円
- 給与所得控除の半分:82万円
- 特定支出の合計額:150万円
この方の給与所得控除は、164万円+(150万円-82万円)=232万円となりますので、232万円が経費として認められます。
良い制度なんですが、使いにくいポイントもあります。
このあたりについてお話していきます。
認められる経費がほぼ限定列挙
まずは、特定支出として認められている経費の一覧表をご覧ください。
特定支出の項目 | 特定支出の内容 |
通勤費 | 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出 |
転居費 | 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出 |
研修費 | 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出 |
資格取得費 |
職務に直接必要な資格を取得するための支出 ※平成25年分以後は、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります |
帰宅旅費 | 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出 |
勤務必要経費 | 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの |
図書費 | 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用 |
衣服費 | 制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用 |
交際費等 | 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出 |
このようなものしか経費として認められていません。
注意が必要なのは、勤務必要経費。
仕事に必要な新聞、雑誌、書籍などの図書費、スーツなどの衣服費、取引先との会食などの交際費は65万円までしか認められないという点。
それ以外の経費でも、この場合は?というのもあるかと思いますので、国税庁の質疑応答より、いくつかの事例を紹介したいと思います。
資格取得費に該当する専門学校(2年制)の授業料等の支出をしました。特定支出はどうなりますか?
2年分の授業料をまとめて支出した場合、支出した年でまとめて特定支出控除を適用することはできません。
それぞれの年に対応する役務の提供(授業など)を受けた分で、特定支出の金額として計算します。
ただし、授業料等が未払の場合は、その年中に支出をしていませんので、特定支出には該当しません。
どんな研修を受けたら良いのかわからなかったので、専門家の助言を受けて研修を受けました。この専門家への費用は特定支出でしょうか?
キャリアコンサルティングなどの専門家の助言は、研修と一体的に受講することにより、研修の効果をより発揮することができると考えられます。
なので、専門家への相談にかかった費用も特定支出の金額として計算します。
ただし、専門家の助言や指導のあった研修を受講しなかった場合は、特定支出とはなりません。
勤務先より弁護士の資格を取得するよう命令を受け、法科大学院(ロースクール)に通うことになりました。この法科大学院に係る支出は、特定支出となりますか?
弁護士、会計士、税理士などの資格を取得するための支出で、職務の遂行に必要であり、それを給与等の支払者により証明されれば特定支出の金額として計算します。
ただし、司法試験については、法科大学院で一定の単位を取得することで受験資格が得られるので、このように考えますが、会計士、税理士受験生が通う会計大学院などの場合、注意が必要です。
会計大学院などは、法科大学院とは違い、受験資格ではなく試験科目の免除という側面があるため、特定支出とはなりません。(大原やTACなどの資格取得のための専門学校費用はOK)
接客のため、スポーツ新聞を購読しています。特定支出となりますか?
接客のためのスポーツ新聞の購読であっても、職務の遂行に必要であり、それを給与等の支払者により証明されれば特定支出の金額として計算します。
ただし、ほんとうに職務に必要かどうかは、会社の業種や業態、職務内容とスポーツ新聞に掲載されている記事の内容を総合的に勘案します。
職場での服装は自由です。この場合、職場に着ていくシャツやジーンズでも特定支出となりますか?
残念ながら特定支出とはなりません。
服装が自由だという時点で、シャツやジーンズなどの購入のための支出が必ずしも職務の遂行に直接必要なものではないと考えられるからです。
特定支出となる交際費等って具体的にどんなものですか?
まず、支出の相手は会社の得意先、仕入先、職務に関係のある方が対象となっているので、職場の上司・部下など同僚との親睦を図るためのものや、慶弔のための支出は特定支出とはなりません。
また、その目的と形態については、関係を密にして取引の円滑化を図る目的で、飲食店などで接待したり、贈り物をしたりすることが対象となります。
制度の利用には給与等の支払者の証明が必要
完全に個人のプライバシーを守ってくれる会社だったら問題ありませんが、資格取得など結果云々に関わってくることはできれば会社に知られたくないという方もいらっしゃるかと思います。
しかし、先ほどお話した特定支出は、経費ごとに会社からの証明書が必要になりますので、そういった意味では、使い勝手が悪いといえます。
例えば、資格取得であれば、下記の依頼書に必要事項を記載し、勤務先へ提出し、証明をもらうといった流れです。
この用紙は、特定支出ごとに用意されているので、必要に応じてお使いください。
証明書用紙はコチラ
また、交通費、交際費、制服などの衣服費は通常、会社からの支給もあるはずで、その分は自らが経費を負担したわけではないので、特定支出の対象にはなりません。
金額のハードルが高く、節税効果はあまり期待できない
特定支出控除の利用には、年収600万円であれば、給与所得控除の半分の82万円超の経費を使っていることが前提となります。
これって、なかなかのハードルですよね。
特定支出のなかでも最も支出が大きい資格取得費があったとしても、かなり厳しいのではないでしょうか。
先ほどの年収600万円の例では、68万円が給与所得控除に上乗せとなりました。
その節税効果ってどれだけのものなんでしょうか。
簡便的に社会保険料や基礎控除などの所得控除が100万円、復興税は無視して試算してみます。
節税効果
特定支出控除なし
- 600万円-164万円(給与所得控除)-100万円(所得控除)=336万円(課税所得)
- 336万円(課税所得)×30%(所得税+住民税)-43万円(控除額)=58万円(所得税+住民税)
特定支出控除あり
- 600万円-232万円(給与所得控除+特定支出控除)-100万円(所得控除)=268万円(課税所得)
- 268万円(課税所得)×20%(所得税+住民税)-10万円(控除額)=44万円(所得税+住民税)
節税効果
58万円-44万円=14万円
いかがでしょうか。
年収600万円で、150万円の特定支出があったとしても14万円の節税効果でした。
この特定支出控除という制度は、サラリーマンが節税のために利用するというものではないといえます。
資格取得や、転勤や単身赴任などで特定支出が多い年度に使えるといった制度ですので、間違っても節税目的なんかで利用しないようにしてください。散財しちゃいます。
確定申告をしなければならない
この制度を利用する場合は、確定申告が必要になります。
その際、下記の書類を揃えればOKです。
確定申告のときに「給与所得者の特定支出に関する明細書」に必要事項を記載する必要がありますが、他の書類は事前に準備・保管しておいたり、会社からもらうようなものなので、それほどの手間ではありません。
まとめ
これから仕事で必要な資格取得を目指そうとか、単身赴任先から自宅の交通費が結構大きい方は、特定支出控除は適用できないかどうか一度確認してみてはいかがでしょうか。
領収書などが残っていて、会社が証明してくれればという前提条件はつきますが、過去5年分の税金の還付を受けられる制度(更正の請求)も利用できます。
いま、これからだけではなく、過去もどうだったかなと、時間のあるときに見直ししてみるのも良いのではないでしょうか。